前もどこかで紹介したようなしないような気もしないでもないけれど、2年前ぐらいから好きでよく目を通す、「
食語のひととき」。日本語の食に関する表現をひとつひとつ取り上げて解説している本。
例えば、ただ「煮込む」ではなく、「コトコト煮込む」という表現をすることがある。このコトコトというもののもつバックグラウンドが解説してあったりする。そもそもは、連続的に軽く触れて立てる音、ということなのけど、笑う表現で使われることもあったらしい。川端康成の伊豆の踊り子で「ことこと笑った」という表現があったりとか。西洋料理の世界でも「液面が微笑むような火加減」とかそういう表現もあるらしく、煮込みと笑いの関係は・・・などなど。
シャキシャキ、こんがり、しこしこ、とろり、サクサク、ねばねば、ぐびぐび、つややか、ほくほく、からり、こってり、コシ・・・などなど、日本語のそういう「食語」をみているだけでも、日本の食文化の心地よさに浸ってほんわかする。
言語学者ではなく、食品分野の方が書いているのがまたいいと思う。こういう世界の方は、「もっとぷりぷり感を出したかまぼこを開発」となった場合に、「では、ぷりぷりとはそもそも何か?」というところをまず押さえなければ行けない訳で、歴史的にも言葉をさかのぼって掘り下げたりしている。言葉遊びにおわらない、その言葉をもとに実際物体として表現しなければ行けない作業を日々やっていらっしゃるのもすごいとおもう。例えば、深みがある、コクがある、広がりがある、などという抽象的な言葉を、実際にどうやったら食品にだせるのか・・・。「しっとり」などという言葉も、広辞苑には「適度に水分を含んでいるさま」という表記だけれど、実際の食表現になると水分だけではなく油分も関係してくる。そういう世界の視点からいつも日本語の食語を考えている方ならではの面白い本。
PR